2014.11.27 朝日新聞

 

(評・舞台)薪伝実験劇団「ゴースト 2.0」 現代中国を覆う「噓くささ」

岩城京子

 

 イプセンが「演劇のリアル」を探究した劇作家だとするなら、ワン・チョンは「リアルの嘘(うそ)くささ」をその舞台で暴露する。

 

 中国演劇界における「80後」(1980年以後生まれ)の有望演出家のひとりワン・チョン率いる薪伝実験劇団が、昨年に続き国際舞台芸術祭フェスティバル/トーキョーに参加。イプセン作「幽霊」の設定を、監視カメラとネチズンで氾濫(はんらん)する現代中国に置き換えた「ゴースト2・0」を上演した(22日観劇)。

 

 「舞台映画」という独自の演出手法をワンが採用するのは5作目。舞台上に4機のビデオカメラを設置し、ライブ撮影した動画をスクリーンに映す。

 

 中国名を名乗るアルヴィング夫人、オスヴァル、マンデルス牧師(共産党員マン書記として登場)らは、肩を寄せあう身内とも映像回線を介して語る。「1日のネット接続時間が8時間、紙での読書時間が20分」とワンが語る中国の若者たちが生きる、虚構世界のリアルへの風刺だ。またこれは、検閲のため北京の劇場に導入された監視カメラの隠喩とも捉えられる。

 

 葬儀を思わすモノトーンの美術で統一された舞台は、あらゆる発話が生きながら死んだ者たちの言葉だと示唆するかのよう。だが翻って役者たちの身体は、肉感的な俗っぽさを宿し、昼ドラのように過剰な感情を放出させる。その死と生の落差から、現実のすべてが茶番であるかのようなおかしみが滲(にじ)む。

 

 中国発のポストモダンなイプセン劇は、革新的な試みで評価したい。ただ旺盛に詰めこまれた現代風俗記号(性産業、アメリカ礼賛、政治家の隠蔽〈いんぺい〉工作)と、直截(ちょくせつ)な物言いで進むゲーム的な速度感により、表現の核がややぼやけている。現代中国の「幽霊」とは何か。より丹念にその像を映したいところだ。